推しのはなし

 

 この人すごく性格良さそうだね、と言ったのを覚えている。

 私がBTSを認識したきっかけは、昔からよく見ていたジェームズ・コーデンのThe Late Late ShowのCarpool Karaokeで、夫に「BTSの回、面白かったよ。MVも見たけど曲も良かった」と勧められて見たのがはじまりだった。カメラの画角のちょうど真ん中に座ってよく笑いよく踊る彼のことを見て、この人すごく性格良さそうだね? と、ぼんやり夫に話した。それが第一印象だった。

 ジェイホープというメンバーのことを、人やメディアは「いつも笑顔」「明るいムードメーカー」とよく紹介する。それはその通りで、彼はインタビューやバラエティでは、誰よりもハイテンションでお手製効果音を言って場を盛り上げたり床に転がるほど大爆笑したりする。皆の冗談に大きな口を開けて両手を叩いて笑うし、受賞式の入場の際にもカメラや客席に向かって手を振ったり指ハートを向けたりする。並ぶメンバーの端で小躍りしたり大腕を広げたりしてる人がいたら、それがジェイホープさんだと言い切ってしまってもあらかた問題ない。

 そのジェイホープさんの希望でない部分はどうなっているのだろう、笑顔になれない感情が無下に殺されたりなどしていないだろうか、と考え始めてしまってから、ずるずると彼の魅力に引きずり込まれていった。気が付けば全身全霊で推していた。ジェイホープさんは、チョンホソクさんは、希望だけの人では決してない。

 太陽みたいな笑顔の彼は、集合写真ではいつもメンバーの端にいる。中心でニカッとしていることは、まずない。大体は他のメンバーをすっと中心へ真ん中へ行かせて、自分は右端に立っている。

 彼が何も考えずにそうしているわけではないことを、きっと多くのファンは知っている。常に自分の属するグループを俯瞰して見て、どうすればファン達はもっと喜んでくれるのか、どのようにすればもっとチームが良くなるのかを考えている。自分の置かれた立場や役目を理解して、アーティストとしての自分自身やグループのみでなく、事務所、社会や母国、さらには世界全体のことまで広く大きく捉えて先を見据え、チームのために動くことが出来る人だ。

 プレイングマネージャーという言葉がある。

 

 プレイングマネージャーはその名の通り、プレイヤーとマネージャーの2つの側面を持つ。他のメンバーが認めるプレイヤーとしての能力を保ちながら、マネージャー目線でメンバーを叱咤激励し、メンバー間のコミュニケーションを円滑に図りながら、チーム全体の能力をアップさせていくという主観と客観の複合的な能力が必要なので、やろうと思っても誰もが簡単にできるものではない。

 BTSの「継続的成功」を支える「最強プレイングマネージャー」の正体(平松 道子)  

 

 かつて「以前はどうして中心に立たせてもらえないんだろうと思っていた」と言った彼は、次に「でも今は、自分がなぜこの立場なのかわかる」と話した。彼のこの落ち着いた聡さ、悟るような堅実さを、どう表現したらいいやらわからない。小学生の頃からダンスに魅せられ、学生生活も卒業式も犠牲にしてそこへ全力を注ぎ込み、結果を残してきた彼が、ひとりで全身にスポットライトを浴び、素晴らしいダンサーだと名前も有名だった彼が、いざ勝ち取ったデビューの先で真ん中に立たせてもらえなかったら? 自分にだけファンからの手紙がなかった、そんな瞬間が無慈悲にも襲ってきたら? 私だったら擦れてしまうかもしれない。攻撃的になってしまうかもしれない。

 でも彼は違った。その、精神の逞しさと前向きさ、そして自分と他者を信じることのできる心のまっすぐさで、自分の成長に変えてきた。

 かつて「自分はずっとパフォーマンスをやってきたからメンバーを引っ張っていかないと、と思っていた」と話していた彼は、次に「でも今は、みんな頑張ってくれているから大丈夫」と微笑んだ。様々な葛藤があったはずだった。耐え難いほどの痛みも、苦しみも。でもこれを言う彼は笑っている。彼の口からこの言葉が出てくるまで、彼は一体どれだけ長い時間、どれほど重い感情を、ひとりで抱え込んでいたのだろう。

 彼のことを、水のような人だとメンバーは言う。彼について、心の内をあまり話さない人だとメンバーは言う。自分よりも自分の大切な人達のことを優先し、思い、優しく厳しく愛を注ぐことのできる人だ。しかしそれだけではなく、自我も強ければ頑固さもある。欲望がはっきりしている。だからこそ彼は輝く。芯が通っているのだ。彼は簡単には曲がらない。

 そんな彼を、世界が放っておくわけがない。ジェイホープさんと一緒に仕事ができる人は絶対に心地が良いだろう。スタッフに対してもすぐに謝罪や感謝を伝えて、仲間のような同じ高さの目線でいて、自分達の番組にゲストが来れば大きなリアクションと素直な感情表現で歓迎し、番組に出るとなれば相手の目をまっすぐに見て頷いたり「あー」「そうですね!」と相槌を打ったりして意思を伝えながら会話をする。受け答えはいつも真摯で、本音はあまり語ってくれないが安定した返答をいつもくれる。回答を適当に流したり、他のメンバーが話している間によそを向いたりなど、無責任なことを決してしない。インタビューや対談でもジェイホープとしての役割を理解し、積極的に場を盛り上げて空気を和ませてくれる。自分の仕事に対してとても真面目で真剣なひとだ。

 そこには、自分の欲望の形が明確で強い根っこがあるから、その欲を叶えるためには何をすればいいのか逆算ができる、という点も大きく影響していると思う。彼のビジョンは常にチーム基準だ。だからチームにとって良いものは積極的に勝ち取りに行き、悪しきものは「そうじゃないんじゃない?」「そういうのはだめだよ」とメンバーにも指摘ができる。彼らの素晴らしいパフォーマンスの一角であるダンスの長を任せられていることからも、それはよくわかる。仕事やダンスに向き合う彼と、目尻を垂らしてにこにこする彼はまるで別人のよう。

 彼のプロ意識の高さはよく知られている。ステージ上での臨機応変な対応やレスポンスの早さからも汲み取れる。それに、彼は体調を崩すことが本当に稀だ。自分の身体を完璧に掌握して管理している。ほぼ毎日パックをするという肌はいつも露のようで、唇や髪のケアも手を抜かない。爪もいつも短く綺麗だし、指にささくれなんて見た日には珍しくてどうしたんだろうと思ってしまう。自分達のMV鑑賞をしているときも、自分がカメラに抜かれるシーンになると突然目の色を変える。自分やメンバーの動線をチェックしながら的確に指示を出すときの彼は、プロデュース側の人間でもあり、ステージの外から見た客でもある。

 それに、これは彼のファンをやっていると気が付くと思うが、彼のパフォーマンスはいつも一定ラインのクオリティが維持されている。どんなに雰囲気のゆるい番組でも、どんなにきついステージの後でも、彼はいつもブレがないパフォーマンスを魅せてくれる。あ、今日ジェイホープさんちょっと調子悪いのかな? なんて、もしかしたらこれまで一度も思ったことがない。彼は自分の感情を理性で自在に操っている。

 彼は確かにダンスの天才、ダンスの王者、そう呼ばれるに値する素晴らしい唯一無二のダンサーだ。ラッパーとしても、開始が遅かったなんて思わせないほどスキルを磨き自分だけのスタイルを確立させているし、作詞作曲の面でも、彼が能力のあるソングライターだということは数々の賞や記録からもわかるはずだ。しかし彼の輝かしい功績の裏には血を吐き汗を流す努力と、涙に溺れる犠牲があることを忘れたくない。彼が繊細な努力家であることを、私達は知っている。

 彼の描くゴールが何なのかはわからない。でもいつも自分自身を満足させることを忘れない彼は、きっと、ゴールのその先でも自分の渇望を満たすために努力を欠かさないのだろう。

 彼はよく自分の選択の話をする。努力の話をする。過去を、自分が歩んできた成長という道の大切な過程だと捉えている。未来を、自分自身が切り開いていく果てない可能性とポジティブだと捉えている。

 彼の後悔のない人生選択と、それらへの自負を、なんてかっこいいのだろうといつも思う。挑戦と感謝に生きる、前を向いたひとだ。生涯に一生懸命で、まじめで、それゆえに人生の交差において「運」が非常に大きい影響を与えるということも、重々理解しているように見える。自分が今ある位置を、全て自分の手柄だなんて言わない。

 周囲への感謝と愛が深い。深海のように。メンバーも彼のことを「いつも感謝を忘れない人です」と言うし、彼自身もこれまで何度も「感謝ばかりの人生です」「常に感謝を忘れないようにしています」と話している。

 誠実で真面目で素直である、まっすぐであることは何より素敵なんだと教えてくれた。彼はいつも全身を転がして笑う。楽しいときやおもしろい時は、斜に構えず大口で笑っていいのだ。彼は銅メダルで悔し涙を流したりステージ上で感極まって大泣きしたことがある。悔しいときや強く感情が揺さぶられた時は、誰にどう思われようと思い切り泣いていいのだ。彼はしょっちゅう感謝や愛を言葉にする。ありがとうや愛してるを相手に率直に伝えることは、なんと尊くかけがえのない行為なのだろう。私達はそれを恥ずかしいとか、ダサいとか、そんなことを感じなくていいのだ。

 飾らず、深いまごころを持ち、斜めにならない彼は本当に美しい。

 彼は嘘がつけない。彼は感情がそのまま顔に出るし、言うべきことをすぐに口にする。そんな彼が教えてくれるのは、私達が忙しない日常の中でつい忘れてしまったり、人の悪意に触れていつの間にか意地が悪くなってしまったりした、その空白を埋めて歪曲を矯正してくれるような「誠実さ」だ。そんな彼を見ていると、私は自然と背筋が伸びる。

 彼の愛情の深さと優しさのきめ細やかさは、普段の社会活動にも表れている。今回私は、世界中の彼のファン達が企画した彼のバースデープロジェクトにいくつか賛同した。多くは寄付だ。例えば、家庭内暴力から女性や子どもを守るためWomen's Aidへの寄付、虐待を受けた子どもの心理的治療を支援するためセーブ・ザ・チルドレンへの寄付、経済的に困っている学生を支援するためJOYダンスアカデミーへの寄付、引退した補助犬の保護のため日本サービスドッグ協会への寄付…など。それは、彼が普段から社会に貢献することに積極的だからこそ起きるファンダムの連携と行動だ。

 実際、今日、彼はまた寄付を行った。

 

 児童擁護機関「緑の傘子ども財団」は「BTSのJ-HOPEが2月18日、自身の誕生日を迎え、障害を持つ児童のための後援金1億5千万ウォン(約1400万円)を渡した」と伝えた。今回の寄付金は、経済的困難を抱える目や耳が不自由な児童の保育費と学習費、施設支援費に使われる予定だ。 https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2162628

 

 彼はいつも子どもの存在を忘れない。世界中で苦しんでいる人達に手を差し伸べる。性別、人種、国籍、年齢、外見の良し悪し……そんなものは全て取っ払って、誰にでも同じ目の位置で対話する。そして自分の行動や発言がどう世界に影響を与えるかを理解し、それをプラスの方向へ利用する。健康や平和を常に願う彼は大人としてとても立派だ。

 自分は自分、他人は他人。しかし健全な共存を目指していく。

「ディスらないラップ」をモットーに掲げる彼の思う平和だ。

 

 「僕の音楽が皆さんの平和の一片になれたら、それだけでも僕にとって大きな意味になると思う。(中略)そして皆さん、その小さなパーツたちがひとつになったらどうなりますか? どんな大きな平和が作られますか?」(2018/3/2)

 

 彼のような人を他に知らない。彼のような、世界中の「こうなりたい」を集めたような人を、世界中から愛を注がれるべき人を。

 彼を突然大好きになってしまった夜を覚えているけれど、あのとき私は、彼のソロ曲「Just Dance」を聞きながらボロボロ大泣きして「ああ、最後の推しに出会ってしまったな」と思った。あの日からずっと、毎日彼のことを心から応援している。毎日彼の幸せを願っている。

 ジェイホープさん。

 あなたに出会ってから、人生をもっと一生懸命にまじめに生きるようになりました。愛してるやありがとうを人に何度も伝えるようになりました。少しでも人のプラスになりたいと願うようになりました。そして行動するようになりました。卑下や過度な謙遜を一切しなくなりました。可能性を信じて後悔をしない選択肢を選ぶようになりました。自分のために全力で努力し、大切な人のために全力で真心を持つようになりました。

 あなたの棘のない笑顔や一直線な言葉、メンバーへの気遣いと愛情、家族や故郷や母国への敬いと愛情、自分の選択や人生への自負、抱えるものや任せられたものへの矜持、身軽さと思慮深さ、変化を受け入れ進化するエネルギー etc.を、深く深く尊敬しています。とてもとても大好きです。

 だんだん丸くなっていく輪郭を、ラップをする声の高音と低音の割合が変わっていく変遷を、目尻に寄るシワが一本ずつ増えていく愛おしさを、ずっと見ていたい。

 たとえいつか歌えなく踊れなくなる日が来ても、ステージで人懐こい笑顔と大きなハートマークを見せるあなたであってほしい。いつか着陸するときがきたら、そのときはアミはあなたを笑顔で送り出すだろう。新しい世界に飛び込んでいくあなたの細い背中を笑顔で、笑顔で。

 あなたがくれた愛を私達はずっと忘れない。

 名前に希望を背負う重さに思いを馳せると、涙が出ます。全てを手にしたけれど寂しい、その場所がどんなに高くてどんなに孤独か、想像をすることしか出来ないけれど、どうかあなたの心を優しく撫でてくれる誰かや何かが傍にあってくれますように。希望ではない感情たちの行く先が、どうかあたたかくて柔らかい花の香りであってほしい。今日も明日も一年後も、どうかあなたが心身ともに健康で、心の底から晴れた気持ちで笑えますように。

 あなたは世界から愛されています。世界から祝福されるべきひとです。そして、あなたの傍にはずっとかけがえのない六人の仲間がいます。

 ホソクさん。お誕生日おめでとうございます。ジェイホープさんになってくれて、ジェイホープさんとして生きてくれて本当にありがとう。あなたのこの一年が、健康で穏やかであたたかいものでありますように。

 

 日本から愛を込めて 

 2021/02/18